The Trust Project 我々はどのニュースを信じればいいのか?

アメリカにおけるマスメディアへの信頼低下

アメリカではフェイクニュースが大きな問題となり、社会にも影響を与え始めたことでマスメディア全般の信頼性の低下が懸念されています。ギャラップの2016年の調査ではマスメディアを信頼するアメリカ人の割合は32%と過去最低を示し、業界全体でこの問題に対処する動きが生まれています。

Via Gallup, 2016/9/14

サリー・レーマン(サンタクララ大学マークララセンター・シニアディレクター)が主宰するThe Trust Projectもそのような動向の一つです。The New York Times、BBC、Zeitなどのメディア75社が参加し、Google、Microsoft、Facebook、Twitterら主要なプラットフォームがテックパートナーとなっています。本稿ではこのプロジェクトをご紹介し、ニュースの信頼性について考えたいと思います。

The Trust Projectについて


The Trust Projectが目指しているのは、ウェブ上のメディアやジャーナリズムに透明性をもたらすシステムを構築することです。

メディアやジャーナリストはトラストインジケーター(Trust Indicator)というニュースの透明性を表すいくつかの指標をウェブ上の記事やサイトに付加します。ユーザーはその指標をメディアのサイトや検索エンジンやソーシャルプラットフォーム上で確認することができます。

つまり、第三者がニュースの信頼性を判断するわけではなく、報道する側が記事に背景情報を付加することによってアカウンタビリティを発揮し、ユーザーの記事選択を助けるという方法論です。

なぜこのような方法論に行き着いたのでしょうか?プロジェクトは二年間にわたってアメリカとヨーロッパのユーザーに対してニュースの信頼性についての調査を行いました。その結果、彼らは誰が書いたのか、書き手はどのような専門知識を持っているのか、メディアは何を志向しているのかといった背景情報を知りたがっているということがわかったのです。

MEMO

 

The Trust Projectの参加企業はTrust Markというロゴをサイト上に掲載する予定です。日常的にオンラインで目にする日がくるかもしれませんね。

 

 

8つのトラストインジケーター(Trust Indicator)

それでは8つのトラストインジケーターを見ていきましょう。これらは37以上考案され、参加各社の意見を取り入れて最初の8つとして決定されました。

  1. ベストプラクティス(Best Practices):編集方針や倫理規定、ファクトチェックの基準など
  2. 著者/記者の専門分野(Author/Reporter Expertise):筆者の経歴や専門分野、媒体との関係など
  3. 記事の種類(Type of Work):論説、分析、広告などどんな種類の記事なのか
  4. 引用や参照(Citations and References):記事で使用された引用や参照元
  5. 方法(Methods):なぜ、どのように筆者はその記事を作成したのか
  6. 地元(Locally Sourced):事件の起こった場所と時間、記事は現地で書かれたものか
  7. 多様な意見(Diverse Voices):多様な意見や観点を取り入れるためにどのような努力をしているか
  8. フィードバックの受領(Actionable Feedback):読者からのフィードバックを記事の優先順位や記事の作成プロセスに活かす努力を行っているか

これらのインディケーターはSchema.orgのNewsMediaOrganization Schemaマークアップによって記事に付加されます。構造化された記述によって検索エンジンやソーシャルプラットフォームがそれらを理解し、表出することが可能になります。

情報の非対称性とニュースの信頼性

ニュースの受け手がコンテンツの内容だけでその真偽を判断することは難しい場合が多いと思います。ニュースの発信者と受け手の間には情報の非対称性があり、発信者の方がより多くの情報を持っているからです。

その際、受け手はニュースを信頼するかどうかを情報の中身よりも発信者を信頼できるかどうかに頼りがちです。メディアの権威や筆者の知名度、フォロワー数の多さなどで発信者を判断し情報を信頼するかどうかを決定していきます。

しかし、もう一歩踏み込んで考えるとこれらの要素が発信者の信頼性を保証しているとは必ずしも言いがたいと思います。そこには発信者側からの主体的な説明責任が見えないからです。

発信側がアカウンタビリティを果たそうとするこの試みは標準化されるまで多くの努力が必要だと予想されますが、期待が持てる活動だと思います。

まとめ

日本においてはマスメディアへの信頼度は依然として高いレベルにあり(平成 28 年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査)、アメリカとまったく同じ状況とは言えません。しかし、若い世代を中心にマスメディアの発信するニュースがインターネットを経由して取得される状況がますます加速していくことを考えると、ネットに溢れる真贋合わせた膨大な情報の中でその信頼が希釈され、信頼の低下につながる可能性もないとは言い切れません。The Trust Projectの方法論は日本においても十分参考になるのではないでしょうか?

また、個別のニュースの信頼性以外にも、どのニュースが報道されどれが報道されないかという問題やフィルターバブルの問題もあります。私は人間には問に対して解答を探さずにはいられない性質があると思います。その際、目に触れた材料だけで解答を作り上げたり、誰かの出した解答を無批判に受け入れることは避けるべきでしょう。

個人として多角的に物事を捉え、様々な意見に触れるという姿勢が必要なのだと思います。